高度プロフェッショナル制度を企業が導入する場合のポイントについて説明いたします。
高度プロフェショナル制度とはどのような制度ですか?
高度プロフェッショナル制度は、労働基準法改正により生まれた制度で、専門的な知識を持ち、年収1,075万円以上の人が対象となります。高度プロフェッショナル制度の対象となる働き手は残業、深夜労働、休日労働をしても割増賃金が一切支払われなくなります。
高度プロフェッショナル制度を導入するにはどうしたらいいのですか?
高度プロフェッショナル制度を導入するためには労使による委員会を設置することが求められます。労使委員会で10項目を決議しなければなりません。労使委員会は労使で構成され、委員の5分の4以上の多数による議決によらなくてはなりません。
(1)対象業務
(2)対象労働者
(3)健康管理時間を把握する措置
(4)対象労働者に付与する休日の日数
(5)対象労働者に講じる措置
(6)健康及び福祉を確保する措置
(7)同意の撤回
(8)苦情処理への対応
(9)不同意労働者への対応
(10)その他
これらの決議内容について労働基準監督署に届け出なければなりません。
高度プロフェッショナル制度の導入には本人の同意は必要となりますか?
高度プロフェッショナル制度の導入に際しての要件として、対象労働者の範囲に属する労働者ごとに職務の内容及び制度適用について同意を得ることが必要になります。
高度プロフェッショナル制度は行政への届出が必要ですか?
使用者は労使委員会で決議した事項を行政官庁に届出することで事業場において高度プロフェッショナル制度を導入することができます。
また労使委員会の決議の届出をした使用者は厚生労働省令で定められている健康確保措置の実施状況を行政官庁に報告しなければなりません。
高度プロフェッショナル制度導入のために設置が必要な労使委員会とは何ですか?
労使委員会は労働基準法で設置することが認められた労働者と使用者との委員会制度です。労使委員会は以下の6つの要件を満たさなければならないとされています。
(1)賃金、労働時間その他の当該事業所の労働条件に関する事項を調査審議し、事業者に対し、当該事項について意見を述べることを目的としていること。
(2)使用者及び当該事業場の労働者を代表する者が構成員となっていること
(3)委員の半数については、労働組合(当該事業場で労働者の過半数で組織されている同道組合がある場合)または労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織される労働組合がない場合)に任期を定めて指名されていること。
(4)当該委員会の議事が議事録として作成、保存され、また当該事業場の労働者に周知されていること。
(5)労使委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項が規定として定めされていること。
(6)その他厚生労働省令で定める要件を満たしていること。
高度プロフェッショナル制度を導入すべき10事項とは何ですか?
(1)対象業務
ITや会計、制作、編集など専門的な知識を必要とし、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令に定められているものです。
(2)対象労働者
対象労働者については、使用者と書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められることが必要となります。また1年間に支払われると見込まれる賃金の額が1,075万円以上であることが必要です。
(3)健康管理時間を把握する措置
使用者が対象労働者の事業場内に所在した時間と事業場外で業務に従事した場合における労働時間との合計の時間(これを健康管理時間という)を把握するための措置を、省令で定める方法から決議します。
(4)対象労働者に付与する休日
高度プロフェッショナル制度の対象者に対しては、1年間を通じて104日以上の休日、4週間を通じて4日以上の休日を与えることを決議し、就業規則の休日の項目に規定することが求められています。
(5)対象労働者に講じる措置
①インターバル措置と深夜業の回数の制限
②1カ月または3カ月の健康管理時間の上限措置
③2週間連続の休日を年に1回以上(労働者が希望する場合には1週間連続の休日を年2回以上)与える
④臨時の健康診断(省令に定める要件に該当する労働者に実施)
労使委員会では上記①-④のいずれかの措置を決議し、就業規則に規定することが求められています。
(6)健康及び福祉を確保する措置
有休休暇の付与、健康診断の実施などの省令の定める事項のうち、労働者の健康管理時間の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置として実施するものを決議しなければなりません。
(7)同意の撤回
対象となる労働者が、その後同意を撤回したいという時の手続きを定めなくてはなりません。
(8)苦情処理
高度プロフェッショナル制度の対象労働者から苦情が出た場合についての処理に関する措置を定めなければなりません。
(9)不同意労働者
高度プロフェッショナル制度について同意をしなかった労働者に、不利益な取扱いはしてはならないと決議しなければならない。
(10)その他
(1)~(9)の他で、厚生労働省令で定める事項について、労使委員会で決議しなければなりません。
高度プロフェッショナル制度の導入により、労働基準法の適用除外となる規定は何ですか?
第32条 使用者は原則として1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない。
第34条 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならない。
第37条 使用者が労働時間を延長し、または休日に労働させた場合は割増賃金(2割5分以上、休日は3割5分以上、月60時間を超える場合は5割以上)を支払わなければならない。
第37条 深夜に労働させた時間の労働は通常の労働時間の賃金の計算額の2割5
第4項 分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
高度プロフェッショナル制度の対象業務とはどのようなものですか?
少なくとも年収1,075万円以上であり、高度な専門的知識を必要とする業務に従事することが前提としてありますので、以下のような業務が対象となります。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
- プログラムの開発業務
- 医療品等の研究開発業務
- デジタルコンテンツの編集・制作業務
- 出版の編集業務
- 映像のディレクター
- 不動産取引に係る業務
高度プロフェッショナル制度導入のリスクは?
多くの労働者が心配することは、「休憩」「残業」「休日出勤」「夜勤」という概念が存在しなくなってしまい、残業代がゼロになってしまうという恐怖でしょう。
長時間労働が常態化してしまっても、裁量で労働者が行ったことだからということで話が終わってしまう可能性もあります。
高度プロフェッショナル制度導入により企業は、「健康確保措置」を行わなければなりませんが、次のメニューのうちから一つを選べばよいことになっています。
- 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限を導入する
- 労働時間を1カ月又は3カ月の期間で一定時間内にする
- 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
- 時間外が月80時間を超えた労働者に対して、健康診断を実施する
ポイントは、労働者の健康を維持し、うつ病などの精神的なダメージや心臓病などの肉体の疲れに起因する問題を起こさないような制度設計をして、ルールとして就業規則に残すということです。
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