外国人ための労働基準法入門
日本には、就労する労働者を守るために必要最低限のことを定めた労働基準法があります。この法律では、労働者が健康で文化的な生活を営むことができるようにするために、賃金、労働時間その他の労働条件について基準を定めているものです。
日本の労働基準法は、もしある企業が、基準に達しないような労働条件を定めていた場合、その労働契約のうち基準に達していない部分は、労働基準法の定める基準によるとされています。この法律により、最低限の健康で、文化的な生活が維持されることになるのです。
そのため、外国人の皆様は、何が日本の労働条件の最低基準とは何かを知っておく必要があるのです。この入門では、とくに外国人労働者の皆様に知っておいていただきたい部分を解説しています。
1 労働条件とは何か
日本で働くにあたり、外国人労働者は、使用者である企業との間に通常労働契約を結びます。この写しが、入国管理局に提出され、諸条件が審査され、就労系の在留資格が与えられることになります。
労働条件に含まれる要素の中には、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生など外国人労働者の職場における一切の待遇をいいます。なお、この労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものとされています。
2 労働基準法の平等原則
日本の労働基準法では、労働者がその国籍、宗教等の理由から賃金や労働時間などの労働条件について差別的な取り扱いをしてはならないことが規定されています。ですから、外国人であることを理由に、日本人と違う賃金が支払われることは違法となります。ただし、日本語能力が劣るために、能率が落ち、賃金に個人的差異が出るようなときは、差別的な扱いではありません。
3 強制労働の禁止
日本で働く外国人の方が、暴行、脅迫,監禁など精神的あるいは身体の自由を奪われて労働を強要されるようなことは禁止されています。たとえば、パスポートを金庫に入れられて働くことを強要させられる場合などが、これにあたります。
この強制労働に対する違反については、労働基準法で最も重い罰則である(1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金が科されることになります。
4 労働基準法の労働者とは
労働基準法の労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます。この労働者に該当するかどうかは、雇用、請負、委任者との契約の形式にかかわらず、実態として使用従属関係が認められるかどうかにより判断されます。外国人の方の場合、個人事業主の形ではあるものの、一つの企業のためにだけ働き、その企業の管理職の指示に100%従う形で動いているのならば、実態としては使用従属関係が認められることになります。つまり、自分での裁量権が存在しないケースでは、労働者と判断されます。
5 賃金とは
労働基準法で賃金とは、賃金という名称の者だけではなく、給料、手当、賞与その他名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うものがすべて含まれます。注意点は、通勤手当も賃金となります。
逆に、退職手当や結婚祝い金、病気見舞い金、災害見舞金など任意的、恩恵的なものは、賃金とはなりません。食事の供与、資金貸付など福利厚生的なものや業務日的な出張旅費、社用交際費、作業用品代なども賃金ではありません。
6 平均賃金
日本の労働基準法では、平均賃金という考え方が用いられています。労働者の生活を保障するために使用者に支払い義務が生じる解雇予告手当や休業補償等については、労働者の通常の生活賃金を反映することが必要です。これらの基準となるのが平均賃金というものです。
平均賃金は、算定しなくてはならない事由が発生した日の前日からさかのぼる3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日周で割り算して計算します。賃金が、労働した日または時間によって算定されるかまたは出来高払制その他の請負制によって定められた場合には、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60の額以上で支払われることになっています。この平均賃金という考え方が用いられるのは、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の賃金、災害補償、減給の制裁の制限額の計算のときです。
7 労働契約
日本で働く外国人の場合は、原則として労働契約を文書で締結し、その内容を入国管理局に示すことにより、在留資格を取得することが一般的です。期間の定めなしというケースでは、正社員としてその企業が定める定年までは、会社にいることができるということを意味しますが、外国人の場合は、常に在留資格を有しているかどうかが問われます。その他、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年、高度人材に該当するような専門職の場合は、5年を超える期間については労働契約の締結ができません。もちろん、更新をすることはできます。
高度人材の高度専門職については、労働契約の途中で、他の企業に転職した場合でも、在留資格変更申請を行わなくてはならないということになります。
8 労働契約における労働条件の明示
労働基準法関係で、外国人との関連で最も重要となるのが、労働基準法第15条第1項の労働条件の明示の部分です。使用者は、労働条件を外国人との労働契約の際に明示しなければなりません。日本の労働契約では、次の5項目は、必ず明示されなくてはいけない項目とされておりますので、自らの契約締結の際に必ず確認してください。
- 労働契約の期間に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を与える労働の有無、休憩時間、休日。休暇並びに労働者を2組以上分けて交替に就業させる場合における就業時点間に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨沂に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
9 就業規則
日本の労働基準法では、就業規則がルールブックとして非常に重要な意味を持ちます。納得のゆくまで働く企業の決め事を理解する必要があるでしょう。社員数が10名以上の企業であれば、必ず就業規則を作成する必要があり、その内容として労働時間、賃金、退職(解雇事由を含む)の3点の内容確認は、一番重要なポイントとなります。これらの3点については、必ず就業規則に記載がある絶対必要記載事項とよばれるものです。
日本では、就業規則の内容について、事業主が外国人労働者も含め、周知しなければなりません。もし、日本語が完全に理解できなければ、自分の分かる言語に直してもらいその内容を把握するようにしましょう。
もしも自分の結んでいる労働契約の内容が、所属する会社の就業規則に記載されている内容より低いものである場合、その労働契約の足りない部分の内容は、無効であり就業規則の内容にまで引き上げられます。
10 解雇
外国人の場合、在留資格の種類により在留できるかどうかが、決まってきます。もし、社外で私的な事でトラブルを起こし、在留資格の取り消しを受けるようなことがあれば、外国人の場合、解雇という問題に直面します。
日本の労働基準法では、「解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を乱用したとして無効とする」と定められています。
ただし、犯罪行為などで、自ら日本にいる権利を失うような場合は、当然会社にて就労するということもできなくなります。
通常のケースでは、日本は、解雇をされにくい国です。例えば、日本では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇されません。また、女性労働者が、労働基準法65条に規定される産前産後の休暇の規定によって休業する期間及びその後の30日は、解雇してはならないと規定されています。
逆に、レアケースとして、大震災等で社屋が倒壊し、事業の運営が不可能になったときなどは、外国人労働者も含めて解雇することが許されています。
日本では、労働基準法の20条によれば、使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています。これを解雇予告手当といいます。
11 休暇
日本では、年次有給休暇という制度があります。雇い入れの日から起算した勤続期間が6ヵ月で10日間の有給休暇が与えられます。ただし、期間の全労働日の8割以上出勤することが条件です。その後も毎年取得可能な日数が増えていくのですが、最大で20日間となっています。これは、継続して6年6か月勤務した時の場合です。
有給休暇の取得可能な日数までは、休んでも賃金が減額されません。権利を取得した外国人労働者の場合も、日本人同様に自分の好きな時期に付与日数の範囲内であれば、有給休暇を取得することができます。
12 労働時間
日本の労働基準法上、労働時間は、休憩時間を除いた実際の労働時間のことをいいます。使用者から指示を受けるなど、指揮命令下にあって仕事をしている時間が労働時間となります。
日本の労働基準法では、1日8時間、週40時間までが、基準内の労働時間とされており、これを超えて働かす場合は、36協定による取り決めと労働基準監督署への届けが必要になります。
労働基準法では、1か月の合計が60時間までの時間外労働及び深夜労働については、通常の労働時間の賃金の25%以上、1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合は、60時間を超える労働について通常の労働時間の賃金の50%以上、休日労働については、通常の賃金日の賃金の35%以上の割増賃金が必要です。
このように日本では、さまざまな労働基準法のルールがありますので、その基本部分だけでも知っておくことが重要ですし、自分の義務と権利を理解することで、安心して日本の企業にて勤務できるのです。